降籏 大介

コンピュータ実験数学講座

Furihata Daisuke

コンピュータ実験数学講座

教授 降籏 大介 Furihata Daisuke

コンピュータ実験数学講座 降籏 大介具体的な手計算がどこまでも可能で意外な結果が出せる差分法がお気に入りの、数値解析スキーム構成研究者。
偏微分方程式対象の構造保存解法である離散変分導関数法を提案。
今は他研究者も巻き込んで格闘中。

 

昭和43年(1968年)東京生まれ、長野県で育つ。平成2年(1990年)東京大学工学部物理工学科卒業。平成13年(2001年)4月に京都大学から阪大に赴任。専門は数値解析による偏微分方程式の求解方法の構成で、近年発展をみせている、微分方程式の近似解数値計算法としての構造保存解法に属するものである。構造保存とは、方程式が内在する性質や関係性をその離散近似式である数値スキームが離散的に再現することの謂であり、構造保存解法はその着目する性質や再現手法などを与えるフレームワークとみなすことができる。われわれが1990年代に提案し、これまで研究をすすめている離散変分導関数法とはこの構造保存解法の一種である。離散変分導関数法は主に偏微分方程式に対するもので、方程式の変分構造と解のエネルギーと呼ばれる大域量の関係性に着目してその保存性ないしは散逸性を数値スキームで再現する方法を与える。標語的に言うならば、離散変分導関数法は変分導関数を介して系の散逸性・保存性が表される微分方程式問題に対して、その性質を数値スキームで離散的に再現する方法論である。

この方法について、少し具体的に解説してみよう。例えば、具体的な対象の偏微分方程式例としてCahn-Hilliard方程式をとりあげてみる。これは相分離現象のモデル方程式で、その繊細な挙動から数値計算が難しい例として知られている。空間1次元の場合、組成比分布関数u(x,t)に対するCahn-Hilliard方程式は具体的には

空間1次元の場合、組成比分布関数u(x,t)に対するCahn-Hilliard方程式

で表される。この方程式は物理的考察を経て(一定の境界条件下で)自由エネルギー モデル化
が減少するようにモデル化されている。逆に言えば、このエネルギー減少性が系の時間発展方向そのものを決めるといって良い。この関係性を数学的に表すと、方程式自身がGの変分導関数を用いて

Gの変分導関数

と表せる、という一言に帰着する。この表式によりJ[u]が減少していくことが導かれる。なお、このときGの具体形がどうであるかは関係ないことに注意しておこう。離散変分導関数法は、離散計算においてこの事実を再現することで数値計算法を半ば機械的に導出するもので、この具体的な実現手段として差分法や有限要素法、スペクトル法などを用いる。差分法を使った例では、差分法を使った例として、Gを離散化した量Gdに対して離散変分導関数 差分法を使った例を定義し、それを用い

差分法を使った例

と数値スキームを定義することでGdの空間に沿った和が減少する性質を厳密に再現する。この数値スキームはこの再現性から導出されるいくつかの優れた性質を持ち、そしてCahn-Hilliard方程式の安定、かつ、高速な近似計算を可能とする。下の図は、そのような代表的例であるCahn-Hilliard方程式に対する二次元数値計算結果である。このように離散変分導関数法により

Cahn-Hilliard方程式の数値解の時間発展の様子

得られた数値スキームは優れた性質を持つことが期待でき、特に数値的求解が困難な偏微分方程式問題に対して実用上の利点を強く持つ。また、離散変分法の基本にある変分の概念や、その重要な数学的道具である差分法などを上手に適用することにより、偏微分方程式の数値解法だけではなく、物理現象の新しいモデリングや最適化問題の求解などにいくつかの結果ももたらしている。こうしたこれまでの成果のおおよそを
  Discrete Variational Derivative Method , D. Furihata and T. Matsuo,
  CRC Press, 2009。
という成書にまとめてあるので、興味がある場合は一読していただきたい。

数値解析に話を戻すと、この分野は、純粋な数学理論では手のでない問題をコンピュータを用いて具体的に解を得てしまおうという研究分野であり、大きくは応用数学に分類される。数値解析の難しい問題はコンピュータ上の問題、つまり、速度、メモリ等に配慮しつつ如何にプログラミングを行うかという問題に帰着されるように一見思われる。しかし、必ずしもそうではない。むしろ本質的な問題は、コンピュータ以前の、問題を有限な離散系で表現、計算する部分にあり、そのため、研究の骨子は離散数学という分野の問題を一つ一つ解決していくという様相を呈する。数値解析という分野の歴史は意外に古く、数学上の重要な定数πやeの数値表現を手計算で求めてきた歴史も考えれば、数学自体と同じ歴史を持つと言って良い。もちろん、コンピュータの出現によって計算の量と速度が圧倒的に大きくなり、数値解析という分野が特別に意識されるようになってきたのである。以前行った夏の公開講座「離散と連続-微分方程式の数値解析」で数値解析の本来の面白さをなるべく紹介すべく講演を行ったが、この骨子を紹介するために、そのabstractを引用しよう。

数値解析は他のpuremathと同じだけの面白さを持っている

計算機で計算を行う際、実際に計算はどのように行われているのであろうか。ややもすると、計算機ハードウェア自身が数学に関する人類の知識を用いて計算を行う作りになっているかのように錯覚しがちであるが、実はそうではない。計算機ハードウェアは、基本的に四則演算ぐらいの驚くほど単純な計算を受け持つのみである。全ての計算はその単純な計算のみを有限回数だけ用いたアルゴリズムに最終的に還元されて実装されている。つまり、全ての計算が基本的に四則演算の繰り返しだけで実現されていると言ってよい。またメモリの有限性などから、計算機では有理数の一部分のみ、すなわち離散的な数、を用いて通常は計算を行う。

閉じている、という意味で計算機における計算は一つの数学体系をなしているととらえられるが、上に述べたように、有限かつ離散な計算のみを扱うために結果や方法論が通常の数学とだいぶ異なることになる。素朴な基礎から出発して有限と離散という制限の枠内で何ができるかという命題は興味深いものであり、計算機を背景としてこの命題を研究するのが計算機科学である。つまり、計算機科学は「有限」と「離散」という概念からのみなる数学を研究する分野であると標語的にいいかえてもよいだろう。

計算機科学は、その対象および手法から数値解析と(非数値)情報処理という分野に大きく分けられる。数値解析は関数論等の連続的な数学で記述される問題(数値問題)を扱う分野であり、(非数値)情報処理とは、組合わせ論などの離散的数学で記述される問題(非数値問題)を扱う分野である。数値解析はその性格上、連続と離散、極限(無限)と有限という概念を対応させつつ研究を行う分野であり、情報処理は離散かつ有限という概念を最大限利用して研究を行う分野である。

 

上記引用からわかるように、数値解析という分野は一般に想像されるよりはるかに奥が深い理論的なものであり、また、広い範囲におよぶものである。

また、数値解析だけでなく、隣接する離散数学にも興味があり、面白いテーマは無いかと日々考察を巡らせている。意外に知られていないその面白さを紹介するべく、別の年の夏に高校生向けに行った公開講座では数値解析の立脚点を幅広い視点からしってもらうべく、「デジタルの数学-セルオートマトンと計算機」というタイトルで講演を行った。この講座では、ライフゲームによる具体的なセルオートマトンの性質の提示、UTM(万能チューリングマシン)との関係、「計算」という意味の定義、停止問題によるその限界、物理や数学への応用、自己複製機械などをテーマとした。こうしたテーマは多くの分野への関連性が強いうえ、応用範囲も広い。数学の基礎から応用まで縦断する興味深い分野であり、できればこの分野をテーマとして研究を行う学生が出てこないかと期待をしている。

阪大に赴任してから、また、数学科の3、4年生などを対象に輪読セミナーや数値解析関連の授業を行ったりしているが、その際には
 「数値計算法の数理」杉原正顯,室田一雄著,岩波書店,1994年 
 を主なテキストとしている。数値解析について記した和書のほとんどが紙面の都合からアルゴリズムを紹介するだけに終始してしまうのに対し、この書は数値解析の数学理論的側面を妥協無く記述している。読み解くにはある程度広い分野の数学的素養を要求されるため、読み進める際には多少の努力を要するが、数値解析の面白さと難しさを知るのに非常に良い本である。数値解析に少しでも興味のある諸氏、ならびに、数値解析とは単なる大規模な計算を行うことだと誤解している諸氏には、是非とも一読を勧めたい。理論的側面をきちんと把握したい者にとって読後の充実感がけた違いであることを保証しよう。また、コンピュータ全般に不慣れな学生向けには、
 「やさしいコンピュータ科学」A.W.Biermann著,アスキー出版局,1993年
 を事前に通読するよう勧めている。この書はMITで実際に教科書として使われていた書であり、専門家ならずとも一読の価値があると強く思うものである。 また、各学年2名平均で大学院生も受け持っており、現在は修士1年生2人、修士2年生3人の担当教官として指導を行っている。大学院生の指導にあたって最も重視しているのは「自由度の高さ」と「自主性の尊重」である。このポリシーのもと、これまでは幸いにも学生諸氏のやる気に恵まれ、充実した結果が得られていると感じている。

大学院生の指導スケジュールについては、標語的に言うならば修士1年生の期間を「学習から研究への移行期間」、いわば助走期間とし、修士2年生の期間を「自力による研究の試行期間」と位置づけている。これは、現在の教育課程では「既にある知識を人から教わる」学習を小学校に入学してから大学院に進学するまでという長期に渡り行ってきているが、「未知の知見を自分で探る」能力についてはほとんど触れられていないために、「自分で考える」研究行為について多くの学生が慣れていないことを考慮し、段階的な過程を経て研究の面白さを見いだしてもらいたいためである。この位置づけに基づき、修士1年生の間は様々な学習を行い、修士2年生にあがるころから少しずつ自力での研究へと移行させ、最終的には修士論文になるべき研究成果をなんらかの場で発表することを想定している。

具体的には、次のような指導を行っている。修士1年生の間は、まず各自自由にかつ自力で、基本的に数値解析の理論的な分野を主軸としてテーマを選択する。例えば、これまでは共役勾配法、非線型問題の求解(Newton法、ホモトピー法など)二重指数変換積分公式、有限要素法およびフリーメッシュ法、線形計画法、逆問題、機械学習、制御問題などの幅広い多くのテーマが学生自身によって選ばれている。そして、論文ならびに書籍を資料として学習し、コンピュータでプログラミングを行って追実験を行い、様々な比較検討および評価を行った結果をセミナー形式で発表する。そして、そのテーマにある程度通暁した時点で再び他のテーマを選び、同様の過程を繰り返していく。この約1年間の間に、1テーマを掘り下げる学生もいれば、3、4テーマを広く学ぶ学生もいて、各自自分のペースで学習を行っている。この際、研究への移行という位置づけから、テーマの選択から発表まで全体を通して自力で行えるようになることを重要な目的としている。

修士2年生では、テーマに沿って一通り学習/調査するというこれまでに培った能力を用いて、2~4ヶ月という比較的長い期間を用いて、修士論文に用いるテーマを自力で試行錯誤しながら探し、決定することから始める。研究対象テーマを自力で探し求めるという要求は比較的厳しいものである。しかし、テーマを探す行為自体が研究そのものの最も重要なポイントの一つであることから、是非とも自力で行ってもらいたいと考え、こう指導している。例えば、これまでは走化性方程式系、非線形格子上の離散ブリーザ─、Allen-Cahn方程式、正規化長波長波動方程式、拡張Fischer-Kolmogorov方程式、Swift-Hohenberg方程式などの非線形偏微分方程式の離散化に伴う問題やその数値解の解析を始め、種々のテーマが修士論文のために学生自身によって選ばれている。いったんテーマを決定した後は、研究に邁進することになる。具体的には、修士学生のセミナーで現状報告を行い、何が問題なのかを常に整理して、研究の方向を適切に修正するように指導を行う。この際、方法論やおおまかな方向についてはなるべく詳細に指導を行うが、作業や考察、問題の提議等はできるだけ自力で行えるように示唆することを方針としている。これは、その研究はあくまで修士学生自身のものであり、本人が主導的/自主的な立場で研究を行うべきである、と考えるからである。こうして研究がある程度進展し、成果が得られ始めた時点で、公的な学会ないしは研究集会で研究成果をその修士学生に発表してもらっている。こうすることで、自分の研究がどのような位置づけにあるのかを総合的に実感をもって理解することができる。

学生を受け持つ教官として、特に大学院生の指導教官としては、私はスタート地点に立ったばかりの新参者であり、どのような方向に向かって学生と研究を行うかは、やってきた学生次第といえる。また、実際に学生の意思や自主性を意図的に重要視し、生かしていこうと努力しているつもりである。学習・研究のスタイルでも内容でも、またその他の全ての点において学生の自由度は高いので、自主性を強く持ちたいと思う学生は特に大歓迎である。

Cahn-Hilliard方程式の数値解の時間発展の様子

 

略歴

  • 1992年 東京大学 工学部 物理工学科 助手
  • 1997年 東京大学 博士(工学)
  • 1997年 京都大学 数理解析研究所 助手
  • 2001年 大阪大学 サイバーメディアセンター 講師
  • 2002年 大阪大学 サイバーメディアセンター 助教授 (准教授に職名変更)
  • 2017年 大阪大学 サイバーメディアセンター 教授

連絡先

4ケタの電話番号は、大阪大学での内線番号です。豊と表記されたものは(市外局番 06)6850、吹と表記されたものは(市外局番 06)6879 に続けてダイアルすることで大阪大学外からもダイアルインでかけることができます。 ただし,吹(内線)と表記されたものは,大代表(06)6879-5111にかけてください
メールアドレスは、末尾の"osaka-u.ac.jp"が省略されていますので、送信前に"osaka-u.ac.jp"を付加してください。

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